僕は友人たちとブックカフェも高松でやってるのですが、そのお店には登山部もあります。
毎回タイミングの合う人たちが集まっては最高峰でも1000m程しかない山無し県、
香川県の低山を登る。
その中でも今回は市街地からもアクセスがよく、
尚且つ南米でも旅してるのかと一瞬錯覚するほどのダイナミックな山容を誇る石の山、
由良山をご紹介します。
特徴的な外観は遠くからでもすぐ分かる。この山は由良石という、皇居の広場の敷石にも使われている由緒ある石の一大産地。採石場の歴史は江戸時代に始まり、戦後最盛期を迎え、20世紀の終わりにその幕を降ろした。山には静けさと削り取られた岩肌が残った。
麓の清水神社で登山の無事を祈願してお参り。ここは春は桜がメチャクチャ綺麗でお薦めのスポット。そして雨乞いの儀式で古来より有名な社。由良山には龍の伝説があり、この山を取り巻く龍が雲を呼び、天に昇って雨を降らすと言われてきた。祭神・神櫛王(かんぐしおう)ゆかりのちょっと怖い雨乞いの儀式は古代から戦前までは行われていたそう。境内には史跡も。
神社を向かって右手に進んだところに登山道が。一歩森の中に足を踏み入れるとそこは昼なお鬱蒼と暗い。そこかしこにミニ八十八ヶ所のお地蔵さんが。この辺りまではまだ勾配も緩く余裕で登れる感じ。
5分ほど歩くと山がいよいよ本領を発揮してきた。急にきつくなる勾配。登山道には崩れかけた所もあるが、全体的にしっかりと整備はされてる印象。張られた虎ロープを頼りに息切らせながら一気に登る。後半部分はかなりきつく、しっかりと登山っぽさを体験できる。いい汗かけます。
15分ほどで尾根道に出れる。ここからは一気に爽快なトレッキングロード風に。山が両サイドから採石により切り崩されており、尾根道は御椀型の山にしては本当に細い。木々の間から下界の家がよく見える。
本当はダメなのだけどロープから身を乗り出して下を見てみた。採石場と、その建屋がよく見えた。一直線に切り落とされた岩肌の高さは50mくらいはあろうか。危ないのでお薦めしないです。
5分ほど歩くと山頂へ辿り着いた。汗ばみ、本当に丁度いいくらいの運動量。休憩用の椅子と机があり、机の上には登山客が書き込むノートが缶に入って置いてあった。今日だけでも何人もの登山者が名前を書き込んでいたのが印象的。雨乞いの神様として竜王社も側に祀られていた。写真に写ってる岩盤の上で寝転がるのが気持ちよくておススメ◎
標高120mとはいえ、遮るものが無いので高松を一望出来る。この日は生憎ガスが濃くて遠くまでは見渡せなかった。そしてこの柵の向こう側も一直線に切り落とされた断崖絶壁。
この写真は別な日に登った時のもの。高松の県庁やシンボルタワーがはっきりと確認出来るし、遠くは本州、岡山の山までよく見える。
山の稜線が綺麗に見渡せる。石を取るためにここまで自然の景観を変えてしまうとは人の業とはかくも深きものかと。その山も今では緑に覆われ、景色に溶け込みつつあった。その姿はまさしく讃岐平野のグランドキャニオンかギアナ高地といった感じ。
帰り道は、山道を下ったあとは舗装された車道を。讃岐のおにぎり山を眺めながら一気に降りれる。
歩道の脇道には防空壕の跡も。由良山に程近いサンメッセ香川は元は戦前から飛行場だった。完全な岩山だったこの場所は、まさしく天然の要塞みたいなものだったのでしょう。
さらに下ると巨大な池が。採石場跡地に水が溜まったものみたい。相当深そう・・・こんなのが数箇所あって、まさに異空間!ここからは特徴的な由良石の構造をよく見る事が。由良石は、安山岩でも軟らかな黒雲母安山岩。六角柱状の並び方にそって割れやすく、軟らかで加工しやすいのが特徴。苔も付き易かったらしく、まさに名石。
それは皇居の宮殿広場の敷石に、全国の4箇所の名石から選ばれて採用されたことからも分かる。採石場跡にはそれを紹介するパネルも。しかし今年から宮殿広場の敷石は老朽化を受けて由良石を砕いてコンクリで固めたブロック板に張りかえられているよう。宮内庁が張替えを検討した時、既にこの山には採石場の発破音は消えていた。苦肉の策の由良石のリサイクル。香川の石文化の衰退も考えさせられた。
しかしこの山自体が魅力ある里山であることは変わりない。市街地から程近い場所に、様々なドラマを抱え静かに佇む。歴史の結果として得た、変化に富んだ魅力的な山容も捨てがたい。現にいつ登っても地元のお年寄りや、トレーニングする若者たちなど常に人がいて、整備された山道と相まって地元の人に愛されているように思えた。市街地の貴重な里山は狸や梟なども住んでるという。結局そこに生まれ育った人たちにとって、故郷の山というの掛け替えのないものなのだろう。たとえどんなに傷だらけになっても。
僕も家から一番近いので、登山用品を買ったら必ずこの山を登って試す。これからも、何度もお世話になることになりそう。結局秘境は身近にあり、おススメの讃岐の低山である。
《コースタイム》 清水神社5分→登山道15分→頂上10分→登山口 10分→防空壕跡 5分→採石跡の池 5分→登山口 10分→清水神社 歩行時間 約1時間 難易度 初心者向
駐車場 清水神社駐車場 登山道 よく整備されているが時々急坂あり