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川めぐり山めぐり-3.
干潟のタノシミ

高知で雑貨と食、音楽のイベント「ヴィレッジ」開催

2013.5.13 

「はたのみち草第3回』
川との暮らし~洪水~②

michikusa

「三昼夜雨降ラバ」

前回のような話は川沿いの浸水しやすい地域ではよく聞かれる話だ。
四万十川の河口、下田と呼ばれる地区では建物自体に洪水への備えがある。下田のとある商家には写真のような日頃使うことのない数本の柱材が伝わっていた。柱には「三昼夜雨降ラバ・・・」等の墨書が数カ所に見られる。要約すると”三昼夜雨が降るようなことがある場合は、この柱を使うことを面倒だと思ってはならない”といった旨が書き伝えられている。
柱は増水時に鴨居と敷居の間に据え、中間のホゾ穴に合わせて桁材を組み、床板をこの上に置き直す。こうすることで床が60~70cmほど上がり、床板に商品や家財道具等を上げることで浸水の被害を抑える仕掛けだ。

この他にも中村の商家には浸水時に商品を中二階へ上げるための滑車が天井についていたという話もあり、増水に備えたまちづくりの一端が伺える。

土地利用の順番

さて、少し視点を広げてこの四万十川沿いをゆっくり眺めてみると、この流域の景色には共通した約束事があることに気づく。
土地利用の順番だ。(前回記事冒頭の写真の場所を別の地点から見たものが上の写真)
川を起点にして水辺から少し高いところに田畑が、その上に道路が走る。その道沿い、とくに山側に商家や店舗が、その少し高所に人家が、人家の前後にも畑が広がり、後背の山林へと続く。集落の主だった神社はおよそ人家の上から山林までの間にあり、墓所は見晴らしの良い高地にあることが多い。もちろん地域の条件に合わせて細かい違いはあるものの四万十川沿いの景観はこのような順序で形作られている。
当たり前のようだがじつはこの順番が川のそばで暮らし続けるためにはとても重要なのだ。
水辺近くの田畑は頻繁に浸かって被害を受ける。なので作付けは台風前に刈り入れのできる品種や、浸水に強いものが選ばれる。人家の高さまで水が来る頻度は数年に一度程に下がり生活の安全度が増す。寺社は最後の避難場所になることがあるため経験済みの最高水位より高いところに作られる。
洪水に対しては石碑や建物といった個別のしかけだでなく、土地の利用形態といったより大きなスケールのものも対応するように選択されているわけだ。
gainenzu

安全のしくみ

つまり四万十川沿いの多くの集落景観は、川の氾濫というリスクに対応した暮らしの姿に他ならない。石碑や寺社の位置や浸水への対応も、家屋の仕掛け、土地利用の順番も増水に対応するためのものだ。
四万十川流域での暮らしを見ていると、「安全」とは万全に守られていることではなく、起こることに対して対応できる仕組みなのだと気付く。いくら土木技術や情報精度が高まったとしても、川を相手に暮らしを続けるにはその川に沿った暮らしの知恵や工夫が不可欠なのだ。

四万十川の良さは、綺麗な景色だけでなく、今も昔もそこに川と暮らす人の姿が映ることだ。季節も良くなるこれから、焦って車を飛ばさずゆっくり自転車で川沿いを走ってみてもらいたい。
川辺の暮らしの様々な工夫や知恵との思わぬ出会いが待っているはずだ。

33.032772,132.851186

はたのみち草 12345678


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