昨年7月、「星降る砂浜美術館★砂と光のアート展」というアートイベントでもご紹介した、高知県西部の黒潮町にある砂浜美術館。
今回は、来月のゴールデンウィークに開催される、その砂浜美術館で26年続く「Tシャツアート展」という企画展のご紹介です。まずはその企画展の紹介に入る前に、前回あまり触れることのなかった、砂浜美術館がそもそもどういう美術館なのかをもう少し詳しく説明したいと思います。
私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。
砂浜美術館には、建物が存在しません。黒潮町にある長さ4キロメートルの美しい入野の浜そのものが美術館なのです。砂浜を美術館ととらえることができれば、今まで当たり前として何気なく見過ごしてきた一つひとつが、新鮮なものとして次々と浮かびあがります。
沖を泳ぐ「ニタリクジラ」、潮風を受ける美しい「松原」、砂浜に沿って広がる「らっきょうの花畑」、あるいは浜辺に流れ着く「漂流物」、波と風がデザインする砂模様・・・。天井は真っ青な空、澄んだ空気の壁には、美しい海や松原や緑の山々が描かれている。そんな豊かな自然とともにある砂浜美術館の作品群は、季節の移り変わりや時間の流れとともに、いつも違った表情を私たちに見せてくれます。
砂浜美術館の作品は、なにも自然の事象だけではありません。砂浜美術館の考え方で町を見てみれば、自然と上手につきあいながら暮らす人びとの日々の営み、それを可能にさせてきた、古くから地域に伝わる先人たちの生活の知恵や技もまた、かけがえのない「作品」たちです。
砂浜美術館は、訪れた人が黒潮町のありのままの自然や地域の文化に触れ、その中から自分自身で一つひとつ大切な「作品」を発見し、楽しむ美術館なのです。そして、常にそこにあるテーマが「人と自然のつきあいかた」なのです。
考え方を伝えるための企画展
とはいえ、「美術館は目の前に広がっています。作品はあちらこちらに展示されています」と言うだけでは、皆がみな「はい、そうですね」ということにはなりません。そこで砂浜美術館は、この考え方をわかりやすく伝えるために、年に数回、企画展を行っているわけです。
その中でも、今回ご紹介する「Tシャツアート展」は、砂浜美術館が誕生したその年から26年間続いている企画展です。内容は至ってシンプル。キャンバスに見立てたTシャツに、全国から応募された作品をプリント。浜に杭を打ってロープを張り、洗濯物を干すように約1000枚ものTシャツを並べていきます。
陽が差すとTシャツの影が砂浜に写り、潮風が吹けば踊り出す。Tシャツをただ並べるだけというこのシンプルさがかえって風景を際立たせ、そこが美術館であるということを訪れる者に確かに感じさせてくれます。そして、そこにしばらく身を置けば、周囲の草花や鳥たちが、不思議と大切な「作品」と思えてくるのです。
ゴールデンウィークのたった5日間だけ存在し、それが過ぎれば、毎年アカウミガメが産卵に訪れるいつもの美しい砂浜に戻るところも、「人と自然のつきあいかた」をテーマとする砂浜美術館らしいところではないでしょうか。ぜひ、この機会に「砂浜美術館」を体感してみてください。
さらに開催前日の5月2日には、今年の審査員であるナガオカケンメイさんと砂浜美術館の立ち上げメンバー、また、それに関わったデザイナーの梅原真さんによるトークイベント「ロングライフデザインと砂浜美術館」も開催。“ロングライフデザイン”と“砂浜美術館”という2つの考え方から、これからの社会を豊かにするヒントに迫ります。こちらもお見逃しなく!
第26回Tシャツアート展
【日時】2014年5月3日(土)―7日(水)
【場所】黒潮町・入野の浜
【お問い合わせ】NPO砂浜美術館/[TEL]0880-43-4915
http://www.sunabi.com/