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「とくしまふるさとごはん」発刊

[秋葉の里からトントンチキチトンチキチ♪其の壱]秋葉さんに魅せられて。

2014.1.17 

「和紙の可能性を訴える」ロギール・アウテンボーガルトさん

素材感あふれるWashiに魅せられて

「いい紙をつくると、楽しい生活ができる。
いい紙をつくるのに、この場所は合っているね」
ときおりはにかんだような笑顔を交えながら流暢な日本語でゆっくりと語るのは、オランダ・アムステルダム育ちの和紙作家ロギール・アウテンボーガルトさん。

高知市から車で約2時間。
ロギールさんとその妻の千賀子さんが営む「梼原和紙&紙漉体験民宿かみこや」は、天狗高原からの風が吹き込む穏やかな風景の集落の高台にたつ。
「かみこや」はロギールさんの工房であり、この地へ赴いたお客さんをおもてなしする場所であり、和紙の魅力を伝えていくための場所でもある。この穏やかな風景の中で、何かを感じてほしいと、2006年にかみこやをオープン。雪で閉ざされることの多い冬場以外はいつでも宿泊を受け付けていて、簡単な紙漉き体験から長期滞在(原料の刈り取りから紙漉きまで一連の工程を体験する)まで、世界でもここだけかも知れない「paper tourizm」を実践している。

かみこや 梼原

古民家を改修した夫妻の家、山に溶け込む緑色の「かみこや」、ベンガラ色の作業場が並ぶ

ロギールさんと「和紙」の出会いは鮮烈だった。
グラフィックの学校を卒業後、まさにヨーロッパ!を感じる職人仕事の世界である「製本」の仕事をしていたある日、偶然手にした一枚の「Washi」。それは、ヨーロッパで一般的に使われるコットンペーパーにはない、素材感に溢れる不思議な紙だった。
コットンペーパーは木綿やリネン、麻などから作られ、どちらかというと均質な仕上がり。透かしてみても光はあまり通らず、いい意味で「無表情」という言葉がどちらかというと似合う。一方、「Washi」は楮や三椏といった原料の繊維が紙を織りなす様がはっきりと見え、コットンペーパーには見られない不思議な「表情」があった。

和紙は、要約すれば楮や三椏、雁皮、桑といった畑で栽培している原料を煮込んで繊維だけにし、トロロアオイから抽出したノリを加えた水で漉き上げるものだ。
その表情は、どういった原料を使うか、どこまで原料の樹皮のカスなどのチリを取り除くかといった原料の加工の度合いでいかようにでも変わるし、「流し漉き」や「溜め漉き」といった漉き方によっても変わる。さらに、水の流れを和紙の表情として残す「落水」や長い繊維を残した「雲龍」のような紙も、いわば自由自在につくることができる。ロギールさんがはじめて出会った和紙も、この「雲龍」だった。

「和紙に惹かれた理由は、その素材感の強さだね」
ロギールさんにとって、和紙のその素材感はwonder!そのものだったのだ。

和紙と出会ってからというもの、こんな紙を生み出した日本を知りたいと、黒澤明監督の映画を見たり日本に関する本をいくつか手に取ってみた。しかし、今とは違ってインターネットも無い時代のこと、ロギールさんが一番知りたい「Washi」に関する情報はなかなか手に入らない。
それならば、もう行くしかないと一念発起して日本へ旅立ったのが1980年、25歳の時のこと。「Washi」と出会ってから半年も経たないうちのことだ。そして、それから約一年にわたり日本各地の和紙産地を巡り、京都で出会った千賀子さんと共に高知県いの町で生活の拠点を構えたのが81年。以後足かけ12年、伊野と土佐市の紙漉き屋さんで修行を積んだ。

高知を選んだのは、楮や三椏など和紙の原料の最大の産地だからだ。和紙のその強烈な素材感に惹かれてはるばる日本までやってきたロギールさんにとって、高知以外の選択肢はなかったのかも知れない。

原料は自家栽培。
かみこや 梼原 三椏 みつまた

枝振りが3つに別れるから「ミツマタ(三椏)」。楮と並ぶ和紙の重要な原料のひとつ

「かみこや」へ入る里道へ入ると、道沿いにはたくさんの三椏が植えられ、脇の畑にはたくさんの楮が植えられていることに気付く。
やがて刈り取られて和紙になるこれらの原料は、地元の方たちと2004年に結成した「やなぎばた会議」のメンバーの協力を受けながら栽培している。メンバーは「かみこや」で使う野菜や山菜、川魚などの食材の生産者でもあり、冬の寒い時期に行われる「楮蒸し」や蒸した楮の皮を白皮にする「へぐり」といった和紙づくりに欠かせない原料加工のプロセスにも共に取り組む。

かみこや 梼原 楮蒸し

2〜3時間蒸し、甑を上げると、部屋中に蒸気が広がる。蒸しているのは楮。

 

かみこや 梼原 楮蒸し

三椏を甑で蒸す準備をするロギールさんと「やなぎばた会議」のメンバー

 

DSC_8279

楮蒸しの甑と一緒に芋や卵を蒸す。不思議な甘さが広がる、この日だけの贅沢。

さきほど、高知県は、日本最大の和紙原料の産地である(あった)と書いた。
しかし、近年県内でも楮や三椏を栽培する農家は激減していて、このままではあと十年もしないうちに良質な原料が失われる可能性があるという。梼原町もかつては楮や三椏の栽培が盛んな地域で、それが伊野から梼原へと移り住む(92年)理由のひとつだったが、いかんともしがたい過疎高齢化の中で伝統がいつまで続くのか予断を許さない「やなぎばた会議」の活動は、こうした現状へロギールさんなりにどう楔を打ち込むかの実験でもあるといえるだろう。

土佐の楮や三椏が無くなるかも知れないというこの問題は、ロギールさんだけでなく高知の多くの紙漉き職人が不安視する大きな問題だ。県をはじめとした行政機関には、産品の開発販売や移住の促進だけでなく、こうした「地味」な部分にもっと力を入れていくことを望みたい。でなければ、やがて産業が根っこから崩れていく。少なくとも土佐和紙は、そのギリギリのところにある。

諦めないこと。いつまでも挑戦すること。

かみこや 梼原

ロギールさんの和紙は、原料の表情がはっきりと見える、荒々しさと繊細さ、その両方が違和感なく同居しているのが特徴だ。
材料は自家栽培の楮や三椏の他、桑やベンガラ、赤土、木炭、杉皮、蛇紋岩など様々。山から採取したシダや野草も、紙に漉き込む大事な材料のひとつだ。水は近くの谷のわき水しか使わず、材料を繋ぎ止めるノリとなるトロロアオイも自家栽培している。素材感がどこか弱くなる、原料の繊維を細かく砕くビーターなどの機械は使わない。
ロギールさんの和紙は、高知県内でいえば牧野植物園の展示室や梼原町の建築物(雲の上ホテル別館や梼原町総合庁舎など)でも見られるランプや壁紙のように、インテリアとして使われることも多い。和紙の使い方を隈研吾さんや内藤廣さんといった建築家に提案し、その提案が実って壁紙や壁面パネルとして使われることもあるという(隈さんの建築に納品した和紙は、1年以上にわたって試行錯誤を繰り返して漉き上げた苦労作だ)。
※ロギールさんのランプや壁紙などの作品は「かみこや」のホームページでも見ることができる。
「もともと日本は家の中でたくさんの紙を使う文化だったんです。
襖や障子、壁紙・・・ヨーロッパにはそういった文化はありません」

日本の家から和紙がいつの間にか失われ、和紙は昔のようには売れなくなった。
だけど、そんな時代だからこそ「諦めずに和紙の可能性を訴え、挑戦し続けることが大事だ」とロギールさんは語る。そして、他の人がやらなくても、自分でできること、興味を持ってもらえそうなことをそれぞれが考えてやり通す。その思いを若い紙漉き職人さんも和紙を商っていこうとする人たちも大切に持っていってほしいという。

「私の場合、そのための舞台が「かみこや」だね」
ロギールさんの挑戦は、まだまだ続く。

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紙漉体験民宿 かみこや

〒785-0603 高知県高岡郡梼原町太田戸1678
TEL.0889-68-0355 FAX.0889-68-0080
http://kamikoya-washi.com/

紙漉体験民宿 かみこや


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