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移住体験エッセー「四国に移住しました。」vol.3

海の道として利用される『三津の渡し』に乗って古い町並みを歩く《愛媛》

2015.6.4 

《高知の人》坂本さんがアッコになる理由。

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 私の偏見かもしれませんが、高知にはチョット変わった人がたくさんいます。ただ単に変人というわけではなく、誰かのために、また何かのために、「そこまでしなくてもいいんじゃない?」っていうぐらい頑張っている、ちょっと変わっているけど、すごく尊敬できる人達です。そして、わが高知県は、そのチョット変わった人達によって支えられ、なんだか面白い場所になっているように思うのです。

知る人ぞ知る「坂本アッコ」。

 ある日、私のFacebookのタイムラインにユニークな写真が流れてきました。それは異業種交流会の二次会らしき雰囲気で、芸能界のゴッド姉ちゃんこと「和田アキ子」さんの格好をした男性が熱唱している写真です。付いているコメントを見ると『坂本アッコ、最高!』とか、『出た!坂本アッコ』とか、誰もが大喜びしている様子。このとき初めて『坂本アッコ』を見た私の感想は「余興にしては本格的だなぁ」でした。

口とマイクの距離感まで本格的。

口とマイクの距離感まで本格的。


 その後もたびたびSNS上に現れる『坂本アッコ』。あるときは飲み会…あるときは結婚式…あるときはお祭り…あるときはイベント…。「坂本アッコって何者なの?」そんな疑問がふつふつと湧きはじめたころ、とうとう私はご本人に会うことができたのです。

もちろん普段はフツウの姿です。

もちろん普段はフツウの姿です。


 『坂本アッコ』こと、坂本圭一朗さん。高知市にある出版・印刷会社「株式会社リーブル」で取締役営業部長を務める、けっこう偉い人…。新人の営業さんならともかく、偉い人ならわざわざアッコのモノマネなんかしなくても世の中渡っていけますよね? なぜ坂本さんはアッコになるんでしょうか?

自分をさらけ出すのが怖かった。

 坂本さんは熊本県出身。大学進学を機に関西へ移ったものの「勉強をしながらふらふらしたり、個別指導の塾の講師をしたり…」と淡々とした日々を過ごしていました。
 そんな坂本さんの転機となったのが平成11年、30歳の時。義母さんが亡くなり、奥様の実家がある高知へ移り住むことになったのです。当初は高知でも塾の講師として働いていましたが…

「限界を感じていました。勉強に疲弊している子供達もいて、勉強の楽しさを伝えたいと思っていながら、自分をさらけ出して生徒と向き合うことが難しくて。塾長からも『なぜ生徒ときちんと向き合わないんだ』とよく叱られていましたね」

 教壇に立つのが怖くなった坂本さんは30歳を過ぎたところで無職となり、自分が進みたい道も分からぬままハローワークへ通いました。そして、33歳になったある日、一つの求人票を目にします。それが今の会社でした。

「求人内容は《営業》。やったことがなかったので正直どうなんだろうと思いましたが、30歳になっても自分が変われなかったことが、逆に転機になったというか…『変わりたい』と強く思うようになっていたので、思いきって応募しました。でも、最初は会社に入ってちょっと明るくなったね、と言われるぐらいでいいかなという感じでした」

 採用された坂本さんは、初めて知る世界、初めて出会う人、そのすべてに一生懸命向き合いながら営業マンとしての道を歩み出しました。そんな中、社長からいかにも営業マンらしい命題を授かるのです。

「あそこの取引先との忘年会では、何か芸を披露せないかんで」

 もちろん当時の坂本さんが芸を持っているわけもなく、「どうしよう…」と悩みましたが、ふいにカラオケで歌った時に「全部和田アキ子に聞こえる」とツッコまれたことを思い出しました。「『あの鐘を鳴らすのはあなた』はカラオケでも盛り上がる曲だし、アッコのモノマネでもしてみるか…」奥さんから赤いワンピースを借りて挑んだ忘年会で、坂本アッコは産声をあげたのです。

坂本アッコ、誕生。

坂本アッコ、誕生。

坂本アッコを支える近所のお母さん。


 元々音楽が好きで声量もあった坂本さんのアッコは「うまい」と評判を呼び、あちこちから声がかかり始めます。そこで坂本アッコを支えることとなる重要人物が現れます。近所にある写真館「フォトスタジオさいとう」のお母さんです。

右がさいとうのお母さん。

右がさいとうのお母さん。

「交流会に行っちょった娘から『坂本さんがアッコのモノマネをしゆう』と聞いて、社交ダンス用の赤い衣装を買うてきたのが最初。次に、ネットで真っ赤なスパンコールのクツを探してね。 今度は衣装がショート丈やったき『これじゃあアッコやないでね』という話になって、生地屋さんで布を買うてきて、誰か縫うてくれん?て声をかけたら、知り合いのお姉さんが縫うてくれたがよ。その縫うてくれた人が、この前坂本さんが慰問に行ったデイサービス施設の職員さんやったが。繋がっちゅうろう? わたしら、リアルフェイスブックやきね(笑)
 最後は頭をどうにかせないかんね、という話になって、ネットでカツラを探して、うちの写真館で仕事してくれゆう美容師さんを呼んで、坂本さんにカツラかぶせてカットしたが。やき、今は完全に和田アキ子状態になっちゅうろう?」

衣装とカツラはオーダーメードなんです。

衣装とカツラはオーダーメードなんです。


 誰に頼まれたわけでもないのに衣装や小物を準備しまくったお母さん。そのおかげで坂本アッコは、やけに本格的な現在の姿へとなったのです。でも、なぜお母さんはここまでサポートしたのでしょうか?

「坂本さんのためにというよりかは、アッコを見て喜んでくれる人のためにという感じやね。私は芸はなんちゃあ出来んけんど、ちょっとでも助けになったらえいかなと思うて。誰だってそうながやない?人に喜んでもらいたいき、色んなことしゆうがやない? 仕事にしても、人に喜んでもらいたいき一生懸命やりゆうろう?」

 お母さんが坂本さんをサポートする理由は、《人に喜んでもらいたいから》。うまく言葉にできませんが、私はこの理由が高知らしいなと感じるのです。そうお母さんに伝えると、こんな話をしてくれました。


「高知はケチなところがないし、お節介焼きが多いわね。ひろめ(市場)らぁ行ったら典型よね。仲間内で飲みよって、うっかり横に座った人が県外の人やったら『まぁ来いや、あれも食べ、これも食べ』と勧めてよ(笑)人を喜ばせるのは高知の自慢やと思う」


人を喜ばせることに一生懸命。

 今や高知じゃ知る人ぞ知る存在となった「坂本アッコ」。最近では、若者が集まるインターンシップのプレゼンにもアッコ姿で登場し、一社の持ち時間が3分のことろ1分半歌ったそう。でも、決してふざけているわけではなく、坂本さんは若者に「人を喜ばせることの喜び」を伝えようとしているのです。

ふざけていません。大人が本気を出している光景です。

ふざけていません。大人が本気を出している光景です。

「僕が今の会社に入って最初にビックリしたのが、チラシの印刷を注文したいというお客さんと話している内に、社長が『今回はチラシじゃない形がいいから、やめちょこう』と言ったこと。その時に『営業ってこういうことなんや』と僕の心がすごく楽になったんです。相手にとって何が一番いいのかを考えるのが僕の仕事なんだと。
 実は、坂本アッコをやって『営業の鑑』と言われることが嫌だなと感じることもあったんです。僕は仕事がほしいからやっているのではなく、その場を盛り上げたり、喜んでもらえたらと思ってアッコをやっているんです。実際、仕事につながることもあるんですけど、媚びたからというわけではなく、『人を喜ばせるためにそこまでやるのだから、きっと面白いものを作ってくれるだろう』と期待してもらっているのだと思います」

喜ばない人がいない、そんな楽しいひととき。

喜ばない人がいない、そんな楽しいひととき。

 坂本さんはアッコのモノマネに一生懸命なのではなく、人を喜ばせることに一生懸命な人だったのです。
 また、「こんなこと語って、お前は何者なんだって感じですが」と笑いながら、アッコになっている瞬間の心境も教えてくれました。


「アッコのモノマネをしている瞬間って、自分の生き様を見透かされているような気がするんですよ。普段の仕事や生き方なりがステージに出ると思うんです。最初は似てる似てないを気にしていましたけど、ある時から気にならなくなったというか、それよりも一生懸命やることの方が大事だなと、掴んだように思いますね」


 最後に坂本さんにも聞いてみました。《人に喜んでもらいたい》って、いかにも高知らしいですよね?

「高知以外だったら、坂本アッコは生まれてなかったかもしれませんね。僕と同じように県外から高知にきた人達と《高知に骨を埋める会》という集まりを結成したんですが、高知に来て水を得た魚状態の人が、僕以外にもけっこういるんですよ(笑)」

チューのサービスも鉄板です。

チューのサービスも鉄板です。

 現在、坂本さんはアッコをセーブ気味だそうですが、ここぞというときには相変わらず大爆発させています。一生懸命歌い、ときには観客に熱いチューをかましながら楽しい時間を届けてくれる坂本さん。30歳で進む道を見失いながら、今や高知を盛り上げ、たくさんの人から愛される存在にまでなったその生き様は、まさにこの歌詞とリンクしています。

あなたに逢えてよかった
あなたには 希望の匂いがする
つまずいて 傷ついて 泣き叫んでも
さわやかな 希望の匂いがする
町は今 眠りの中
あの鐘を 鳴らすのは あなた
人はみな 悩みの中
あの鐘を 鳴らすのは あなた
(引用元:「あの鐘を鳴らすのはあなた」作詞/阿久悠 作曲/森田公一)

毎回全力投球。いい表情です。

毎回全力投球。いい表情です。

坂本圭一朗さんが勤める会社
株式会社リーブル
高知市神田2126-1
電話 088-837-1250
http://www.livre.jp


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