四国は、なんというか、たいした観光地がない。
だが、なんというか、某かの魅力はある。
ぴかぴかと光っていなくても、ぼんやりと光っている。
この「四国裏観光ガイド」とは、
四国のマニアックな魅力をガイドするコーナーである。
四国を代表する名刹にして、珍スポット
四国霊場第五十一番札所、石手寺。
ここは道後温泉から車で10分もかからない場所にあり、境内はとても広く、国宝や重要文化財も多い四国を代表する名刹のひとつだ。香川でいえば屋島寺、高知でいえば竹林寺のような地域を代表するお寺であり、観光地なのである。
国宝は二王門で、高さ7m、間口は三間、横4m、文保2年(1318)の建立、二層入母屋造り本瓦葺き。重要文化財には本堂をはじめとして、三重塔、鐘楼、五輪塔、訶梨帝母天堂、護摩堂の建造物と、「建長3年」(1251)の銘が刻まれた愛媛県最古の銅鐘がある。
四国八十八カ所霊場公式ホームページを見ると、この寺の建築的価値がサラッと書いてるのだが、しかしこの寺のすごいところはそうした深〜い歴史だけでなく、珍スポットとしての価値が高いところだ。
おそらく、その珍スポットとしての存在、そして価値が一気に認知されるようになったのは、「珍スポット」を『藝道』へと高めることとなった都築響一の『ROAD SIDE JAPAN 珍日本紀行』で紹介されたこと。1996年に出版された本で、赤瀬川原平の『超芸術トマソン(1987年)』などと並び、現代日本の風景への見立てをある意味で一新した一冊だ。

さて、山門をくぐりぬけて最初に目に飛び込むのが、「石手寺名物やきもち」のお店。白餅と蓬餅に小豆が入った、まさにザ・素朴そのものの“おやき”だ。店内の小さな鉄板でじっくりこんがりと焼き上げられ、香ばしい香りについつい足を止めてしまう。
やきもち屋さんを過ぎると、仏具や扇子、飴玉や手ぬぐいなどを商う店が参道の両側に並ぶ。観光客ぽい人には一切商売っ気を出さず、お店のおばちゃんたちは店の両側に座り込んでおしゃべりに夢中だ。
国宝の仁王門をくぐると、境内。
風情のある境内だが、「平等」「再生」「自他ともにすくう大師」「皆一緒」と大書された看板がやたらと目立つ。
多くのお遍路さんが般若心経を唱え、お参りをしている傍ら・・・
謎の空間が。
なんというか、全体的に色彩と文字とが強烈に踊っている、そんな感じの境内。
そして、石手寺といえば、こちら。地底マントラ。
香川県善通寺本堂地下の戒壇巡りも魅力的な妖しさがあるが、ここ石手寺の妖しさは四国遍路随一のもの。
長い暗闇のようなトンネルを歩きながら、胎蔵界と金剛界を体感できるというものだ。
100円のお賽銭を入れて入洞。
訪れたのは夏場だったので、洞内には靄が立ちこめ、カメラもすぐに曇ってしまう。
通路の中央に並ぶ仏像は手摺りがわりのロープで結ばれ、つい仏像の頭を触りながら歩いてしまいそうで、なんかバチがあたりそう。
ところどころに仏教の教えであろうか、ちょっと心に入り込んできそうな言葉が照らし出される。
「進 恐れず前見て怠らず」
この日は夏バテで疲れていたので、なんだか妙にグッとくる。
暗闇を抜けると、蝉の声ばかりがけたたましい、なんてことのない山間の細道へ出る。
振り返れば、妖しすぎるマントラの出口。
なんというか、まるで白昼夢、押井守の映画でも見ているかのような感覚を覚える。
カメラのレンズも曇ったままだ。
しかし、妖しいのはここまでではない。
マントラを出て左手を見ると、鉄骨の上に閻魔様と思しき石像が鎮座し、傍らには「Welcome」との看板。
「奥の院」との石柱がなければ、まず足を踏み入れることは躊躇するであろう。
実際、先にマントラをくぐってきたらしい人々はこの像の前に怯み、引き返していった。
しかし、ここもまごうことなき石手寺なのである。
歩いて行くと、黄金のマントラ塔。
この日は工事中で中を見ることが出来なかったが、内部には木彫りの仏像が何百体も並べられているそうだ。
塔のまわりには幾多の木造が並べられ、痩せ細ったお釈迦様の石像も。
とりあえず夜は絶対来たくないところだが、白昼夢の後にこの空間に立つとなぜか清々しい気持ちになるから不思議だ。
マントラ塔の全景。
妖しさと神々しさは紙一重だ。
再び地底マントラを引き返し、地底内で枝分かれしていた道へ入ると、八十八カ所霊場の石仏が並ぶ通路を経て弘法大師が檻のようなものの向こうに鎮座する妖しげな空間へ。こちらのトンネルは地底マントラよりもずっと古くからあったものらしいが、灯りらしい灯りのない空間はちょっと怖い・・・
地底マントラを抜け出ると、すぐにあるのがらくがき堂。
壁一面が願い事やら相合い傘やらが描き込まれ、カオスそのもの。
なかには「肉くいたい」などというシュールな願いも。
その先にある子宝石は、
安産を願う人が石を持ち帰り、願いが叶えば二個石を添えて返すという仕組み。
山と積まれたひとつひとつの石に刻まれた名前や御礼の言葉を見ていると、ちょっと泣けてきた。
第五十一番札所、石手寺。
この寺は、様々な角度からグッとくる、そんなお寺。
道後温泉と共に、しかとご堪能あれ。
熊野山虚空蔵院 第五十一番札所石手寺
愛媛県松山市石手二丁目9番21号
089-977-0870
http://www.88shikokuhenro.jp/ehime/51ishiteji/