なんたって天下のアンパンマンである。
いまや横浜やら神戸やら(なぜか港町が多いような気がする)あちこちにアンパンマンのミュージアムができたことで少々陰は薄くなったものの、生みの親であるやなせたかし先生のお膝元でもある高知のアンパンマンミュージアムはなかなか面白いミュージアムとして今なお成長を続けているのである。
おそらく、アンパンマンのミュージアムと聞けば、多くの人は子ども向けと思うことだろう。プレイモールのようにアトラクションや遊び場が整備されたミュージアムならぬ「アミュージアム」として、子どもたちを虜にするー。それが横浜や神戸のミュージアムの基本構造であり、またそれが人気の秘訣なわけである。
しかし、高知のアンパンマンミュージアムは、ひと味違う。原作者であるやなせたかし先生のお膝元ということもあり、展示の目玉はアンパンマンの世界をモチーフとした4階ギャラリーの多数のタブローである。昭和40年代生まれにとってはスタンダードな絵本のあんぱんまんの原画はもちろんのこと、併設の「詩とメルヘン絵本館」ではやなせがライフワークとして展開してきた同名雑誌のイラスト展示をはじめとする「大人のイラスト」の展示が随時行われている。
はじめてこのミュージアムを訪れた時、アンパンマン、しょくぱんまん、メロンパンナちゃん、カレーパンマンの4人が木の下に並ぶタブローの向こう側に「明るさと切なさが同居する不思議な迫力」を感じてしまい、しばし立ち尽くした。絵の具でしっかりと描き込まれたアンパンマンのキャラクターたちは、ある意味で憂いすら帯びた一人の「人間」として私たちの心に映り込んでくる。分かりやすく解釈されたアニメーションにおけるキャラクターとは違う、絵画ならではの奥行きがそこに生まれるのである。
そして、ミュージアムから少し離れた山際に設けられた絵本館。建物のスリットから差し込む細長い日差しの中、やなせが一本のペンで丁寧に描いた作品を鑑賞するうち、不意に落涙しそうになった。
もしかすると何か心の状態が弱かったのかも知れない。だけど、今は仕事で時々訪れるこのミュージアムで、ひと気のない閉館間際にこうした絵を見ていると、やはりなんともいえない切なさや寂しさ、そして月並みな言葉だが希望を感じるのである。
アンパンマンのミュージアムだから子ども向けなんだろう・・とこの館に足を向けたことのない人もいることだろう。しかし、ぜひこのミュージアムは訪れてほしい。絵を描きたいと思うかも知れないし、海に行きたいと思うかも知れない。もしかすると、バタコさんに惚れてしまうかも知れない(バタコさんは私の好みの女性のタイプなのである)。そう、ここは大人のためのミュージアムなのだ。
やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム&詩とメルヘン絵本館
〒781-4212 高知県香美市香北町美良布1224−2
TEL.0887-59-2300
http://www.anpanman-museum.net/