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世界の文化の中心NYで阿波おどりをしてきた④

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「はたのみち草第7回』
小さな石碑が語る大きな池の話②

絵金蔵

2013.6.27 

絵金蔵と須留田八幡宮宵宮、そして絵金祭り

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一本の蠟燭が屏風絵を妖しく照らす。宵宮の日は、商店街も一切の電気を落として闇夜となる。 写真提供:絵金蔵

一本の蠟燭が屏風絵を妖しく照らす。宵宮の日は、商店街も一切の電気を落として闇夜となる。 写真提供:絵金蔵

芝居絵屏風の世界

飛び散る血沫、首級を提げる青白い女、赤子をさらう鷹、いがみあう男と女。
喧嘩をし、髪を乱し、威勢を張り合い、殺し合い、恨み合い、嘆き合う。
赤や緑、黒が効いた極彩色の絵柄に、大胆な構図。
一見おどろおどろしく、血なまぐさい。しかし、よく見ればどうやら一枚の絵の中にいくつものシーンが閉じ込められている様子を知ることになり、よくよく見ればちょっとした笑いの一コマに思わず吹き出すことになったりと、見ればみるほど、知れば知るほどにその世界へと引き込まれていくことになる。

それが、絵金の「芝居絵屏風」。
聞き慣れない言葉だが、「芝居絵屏風」とは歌舞伎や浄瑠璃の演目の一幕を描いた屏風絵で、神社の夏祭りのために氏子が競って奉納したものだ。描かれたのは江戸時代末期から昭和初期にかけてのことで、高知では絵金こと弘瀬洞意とその多くの弟子達が赤岡をはじめ各地でその作品を遺した(他に高知市の朝倉神社、郡頭神社、南国市の河泊神社など)。
その異質かつ卓越した画面構成からすると今風にいえば「鬼才」というべき絵金だが、この町に辿り着くまでのその足取りは紆余曲折という言葉がまさにふさわしい。

絵師金蔵、略して絵金。

絵金は、1812年に高知城下で生まれた。幼い頃から絵を学び、若くしてその才能を認められて江戸への遊学の機会を得、わずか21歳で土佐藩の御用絵師となるも33歳の時に贋作事件に巻き込まれて城下を追放。足取り不明な時期を経て赤岡へと移住し、以後、町の人々に乞われるがままに神社へ奉納するための無数の芝居絵屏風や絵馬提灯などを描き続けた。
ちなみに、時期的には1854年〜59年の頃には絵金ないし絵金の弟子たちによる屏風絵が赤岡に存在していたことが分かっており、脱藩前の坂本龍馬ももしかするとこれらの「まだつくりたての」屏風絵を眺めたりしていたかも知れない。

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宵宮の日、軒先に並べられる屏風絵。飾られるのは、だいたい19時頃から21時過ぎくらいまでだ。写真提供:絵金蔵

今に生きる芝居絵屏風

それから160年。今も絵金が描いた屏風絵は赤岡の町に生きている。
毎年7月14日〜15日、町のやや北に位置する須留田八幡宮の宵宮に合わせて、鄙びた商店街の軒先に18点の芝居屏風絵が立てられる。陽が落ちるのに合わせて町の灯もしばし落とされ、暗闇となった街角に点るのは絵の前に置かれた一本の蠟燭だけ。朧気な光は屏風絵の血沫をまるで今も流れ出るかのようにゆらめかせ、ぎょろっとした女の目玉は妖しくまたたかせる。祭りの出店はひとつもなく、人出もそれほどには多くない。だが、なんとも妖しい。
その翌週には、同じ場所で「土佐赤岡絵金祭り」が開かれる。こちらは宵宮より多い23の芝居屏風絵に加え、12点の絵馬提灯が軒先に並べられる。たくさんの出店もあり、この2日間ばかりは静かな赤岡の街も鈴なりの人で賑わう。近年は地元の漫画家や作家が描いた屏風絵が並ぶ「えくらべ」という試みもはじまっており、絵金の生きた時代の風習が形を変えて蘇りつつある。

宵宮と絵金祭りは、屏風絵が並ぶところは一緒だが、風情は全くといっていいほどに異なる。ゆっくりと見たければ宵宮だし、ワイワイと見たければ絵金祭りがいい(とはいえ、宵宮にはお年寄りのカメラマンが無数にいるので、ゆっくりと見たいのであればカメラマンが減る夜8時以降がおすすめ)。
しかし、いずれも基本は「闇」。去年、私が広報や図録制作に関わった高知県立美術館の絵金の展覧会のタイトルは「極彩の闇」であった。闇夜の蠟燭に照らされる極彩の屏風絵は、美術館や博物館で丁寧にガラスケースに仕込まれた屏風絵にはない迫力をもって私たちに迫ってくる。

絵金蔵
絵金蔵

行灯で見るレプリカの屏風絵。2ヶ月に一回掛け替えられる。

この「闇」のコンセプトをそのまま活かした形で絵金の芝居絵屏風を「いつでも」見ることができるのが『絵金蔵』だ。受付を済ませてまず最初に客が受け取るのは、提灯。手元のスイッチを押すと朧気に光る仕掛けになっているのだが、これを片手にした状態で私たちは展示室へと誘導される。
9幅の屏風絵が飾られる展示室は、暗い。屏風絵の前には蠟燭の照明が置かれ、雰囲気としては「宵宮」の風情。目を凝らして見ないと屏風絵の全体像がなかなか掴めないから、手元の提灯で屏風絵を照らし出して見ることになる。
ここを抜けると「蔵の穴」と称する芝居絵屏風の収蔵庫だ。ここでは収蔵庫に穴が開いており、常時2枚の本物の芝居絵屏風を覗き見ることができる。つまり、本物はこっちで展示室のものはレプリカ。この施設はそもそも保管状態の悪かった屏風絵をきちんと保管しようということで建てられたものだから、本物は大事にしまってあるわけだ。
そして、2Fは絵金にまつわるエピソードを学ぶことができるコーナー。放屁しあう男女の合戦を描いた笑い絵など、芝居絵屏風の世界とは全く違う絵金の別の顔を窺い知れるようになっている。

ミュージアムとしては、絵金蔵は小さいものだ。だけど、「闇」の展示室なんぞ、おそらく他にはないだろう。また、本物を2枚だけ覗き見させるという、この「微妙なストレス」も、本物を目の前で見たければ本番にどうぞおいで下さい、という話なわけで、このくすぐったい感じは案外ストンと腑に落ちるのである。

というわけで、今年(2015年版追記)は7月14日と15日が宵宮、18日と19日が絵金祭りだ。絵金蔵ともども、ぜひ一度訪れていただければ。

参考文献:後藤雅子「絵師・金蔵と土佐の芝居屏風絵」|グラムブックス「極彩の闇 絵金」

絵金蔵

〒781-5310 高知県香南市赤岡町本町538
TEL.0887-57-7117
http://www.ekingura.com/

絵金蔵

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