手に取るような眺めとはこのことか
8年くらい前だろうか、ここからの風景がサントリーの角瓶のCMで使われていたことがある。
山、川、海、都市、田園、工業地帯。
その一式がここまで箱庭的にワンセットで見える場所も珍しいとかで、実際この場所に立って街を眺めていると、様々な人の営みが手に取るように見えるから面白い。また、東西に続く構造線に区切られた特徴的な地形がこの街の地理を規定していることも、四国山地が一山越えるごとに標高を上げていき、やがて石鎚へと続く山脈へと至ることも、折り重なるように見える北の山々を通してよく観察することができる。
そして、これまでの歴史の中で何度もこの街が南海地震の津波で大きな被害を受けてきたこと、もとよりこれからも受け続けていくであろうことも、また容易に想像がつくのである。
ここは高知市、五台山。牧野植物園や三十一番札所竹林寺があることでも知られる標高146mの山だ。古くは夢窓疎石がこの山の麓に吸江寺を結び、写真手前の土佐湾へと続く浦戸湾沿いの美しい景観を「吸江十景」として讃えたという。見國嶺、独狐水、白鷺洲、粋適庵、呑海亭・・・など、もはやどこがどこやらという状態だが、それでも今もここからの風景はやはり美しい。夜景は神戸あたりには当然適わないが、四国の中では結構いけてる方なのではないかと思う。
最近では、地震関係の番組でもここからの風景はよく登場する。昭和21年の南海地震の際、市街地の東部一帯が水没した写真はここからのものだ。
(高知県高知市)
33.546796,133.573977