車の通る道は、ない。
ひょんなことから一般社団法人そらの郷の主催する秘境探検ツアーに参加することに。その際強烈な印象を受けたつるぎ町一宇にある十家集落をレポートしたい。
一宇の支所に早朝合流した一同はそのすぐ近くにある住民専用モノレール乗り場へ。残念ながらこれはツアーで使う訳にはいかないので見学だけに留めるが、駅といい機体といい物凄くそそられるフォルム。
エンジンを試しにかけてはくれたのだが本当に動いて「生きてる!」と思った。いつかは絶対にこいつにトライしたいと思いつつも一般ルートである徒歩道へ。十家集落には車道は無い。
急峻な山道を登るとすぐに結界が見えてきた。昔は集落の入り口には不浄を避ける為に必ず施されていたそう。ここから本格的な登山道へ。
道のすぐ近くを山の上まで最短ルートで突き進むモノレールのレール。勾配は30度から40度とも言われ、車道をつけるのを断念したほど。息切らせレールの下くねくね道をゆく。
モノレールは住民たちの悲願であり昭和61年に作られたもの。葉たばこの栽培で栄えていた集落の人達は、約50キロの荷物を担いでこの道を多い時は4往復していたそう。
1時間ほどあるくと段々と道は平坦に。あたりは植林された杉林が続く。暗い森。
茶畑が見えてくるといよいよ秘境、十家集落に到着だ。
美しい石積みが続く。石積みはその積み方ですぐにうまい下手が分かるそう。うまい石積みは上部がせり出して勾配になっており、土砂が下に流れないようになっている。そして滅多に崩れない。崩れないからこそこれらの技術は失われてしまった。
住民専用モノレールはそれぞれの家の前まで専用で車両も通っている。もう住むものも居なくなった家では静かにその姿を残す。
昭和30年代には30軒以上の家族が暮らしていたこの集落も、年々人口は減り続け現在は2世帯3人にまで減少している。
村のかつての中心だったお堂に着くと、住民の下家さん夫婦によるお接待が!貞之丞だんごと干し柿!最高の贅沢。
この集落の全ての歴史を見てきたであろう観音様・・・
お堂付近で一気に開ける視界。静寂の谷から見える剣山と次郎笈。まさに霊峰。
このお茶が本当に美味しかった。多分10杯近く飲んだであろう下家さんが作ったお茶。甘い!
昔は大人数で祭事の度に鳴らしたという鐘を鳴らしてくれる下家さん。
奥さん。この笑顔を見に、またここに来よう。車道が無い為か本当に静寂に満ちた十家集落。今でも忘れられない、時間は凍結され、あそこでは全てが一瞬だった。白昼夢のような光景。
また来た道を帰る。
山道の下りは7部とよく言うが、帰りは本当に早かった。学生時代から日本全国旅したが、車道が無い集落というのは僕自身も初だった。時折空を往く飛行機の音以外は何も聞こえないあの場所のことを今も、高松で時々思い出す。そんな場所で今日も強く生きている人がいるということを知るだけでも、雑多な今日をタフに生き抜こうという気力が湧いてくる。
また、あそこへ行こう。