いまある風景に、改めて目を配りたいと思う展覧会
幕末から昭和にかけての高知の風景、
・・・たとえば美しい自然や活気と風情ある街並みなどを描いた絵画や版画が並ぶ《高知家の風景》展が高知県立美術館にて開催されている。
本展では85の作品が展示されているが、今ではその風情がだいぶ失われてしまった浦戸湾が活発に画題になっていたこと、いまではすっかり住宅地になった場所がかつては長閑な田園であったこと、建物や服装は変わっていても今も昔も日曜市の活気はかわらないこと、100年近くの歳月を経てもほとんど変わらぬ風景がまだまだ高知市内も含め残されていることなど、たくさんの発見と驚きを覚えることができる。
そして、いま私たちの目の前にある風景にしっかりと目を向けていくこと、記録していくことが大切だと改めて感じさせられる展覧会だ。
86点のうち半数程度は高知市付近だが、室戸や大山岬、手結、佐川、越知などの風景も多い。同時開催中の「高知県立桃源郷」展ともどもおすすめしたい。
高知家の風景 いまむかし
本展の楽しみ方は、なんといっても高知の風景の「いまむかし」を比較することができるということだ。県立美術館からいくつかの作品画像をお借りすることができたので、ここで作品に描かれた場所が現在どのような風景になっているのかをほんの少しだけ紹介したい。
《丸池》楠永直枝 1936,カンヴァスに油彩
高知市丸池公園そば
江ノ口川河口にほど近い、丸池公園そばにある小さな池が題材。
3枚目の航空写真(1947年米軍測量図 地図・空中写真閲覧サービス)にもあるように、今でもほぼ同じ場所に池が残されており、ガスタンクの場所も当時とほぼ変わらない。
しかし、池の南半分が埋め立てられ半分近いサイズになっていることがわかる。
おそらく、絵の一番奥のあたりが下の写真に写っている池のあたりだろう。
そして、四国山地をこの位置から望むことは今はとてもできない。
《土佐三十絵図 小津風景》坂本義信 1947,木版
高知市小津
高知へ移住した安藤桃子監督の「0.5ミリ」の野外上映でも話題になった城西公園は、実は昭和51年まで高知刑務所があった場所だ(こんな街のど真ん中に刑務所があったことに驚き)。
この絵で見えている白い壁は刑務所の高い壁であり、見えている橋は「小津橋」。
いまや小さな橋でとても歴史があるようには見えないが、現在の県警前から城西公園東詰あたりで屈曲していた江ノ口川が直線状に付け替えられた大正年間に初代の橋が架けられている、それなりに由緒ある橋だ。
ちなみにこの小津橋は「桐島、部活やめるってよ」でも、夜の公園で一人素振りの練習をする野球部のキャプテンを東出晶大演じる宏樹がみつけ、ついつい隠れてしまう印象深いシーンの舞台になっている。
《土佐三十絵図 新京橋》坂本義信 1947,木版
高知大丸前
新京橋は現在の高知大丸前にかかっていた橋で、この絵に映し出された水場は現在「てんこす」が建っている場所にあたる。はりまや橋方面から続いてきた堀川はこの場所で堀詰で水路をさらに北と南へ振り分けていた(この南北への痕跡も各地しっかりと残されている・後述)。
この橋を渡って左側は現在の中央公園にあたる場所になるのだが、戦前から戦後にかけてこの一帯は高知を代表する繁華街のひとつであり、新京橋商店街もいまのように南北に伸びる商店街ではなく中央公園を東西に延びる商店街だった。大西時計店や広末金物店といった高知の商店街を代表する老舗も、多くがこの場所で店を構えていたのである。

「南国の古都ーその街と人ー」寺尾茂(高知県地理同好会/1973年)より
戦前の新京橋のにぎわいがわかる本図《新京橋付近の覚え書き》でいえば、右手の「世界館」などがあるあたりが現在の高知大丸にあたり、そのすぐ横に見える水路は高知大丸西側に残る細路地や蕎麦屋さんの「つちばし」裏手の緩やかな土盛りにその痕跡を残している。
この写真は現在の「新京橋」付近。当時とは風景が一切合切変わってしまっている。
《土佐三十絵図 孕トンネル》坂本義信 1947,木版
高知市横浜
高知市の南部と中央部を結ぶ旧道に残るのが、この孕トンネル。
現道は宇津野トンネルで山をひとまたぎしており、このトンネルの存在を知る人の方が少ない。
護岸は高い防波堤で固められているが、山の形などほぼ当時のままだ。
ちなみに、このすぐ右手には戦前に水上飛行場が設けられていて、絵の左側に見える旅館は海軍や新聞社関係の人で賑わったそう。堤防を上がって海を望めば、今でも水上艇を係留した大きなコンクリート杭がすぐそこに見える。
また、この場所は《日本書紀》において国内最古級の津波被害(白鳳地震/684年)について触れられている場所にもあたる。
白鳳大地震にて変動之節、浦戸港を成せる山を、大浪南方より勢はげしく打寄せて、
この山脈を突き破りて、六七町ばかりの小き海峡をなせしか、
其打ちかきたる山の一部を、猶も湖の岬よする勢にて、北に突き流し、其の孕より北の方へ、
三十丁余りも持ち行きたるが、比島という小島なり。
《雪蹊寺付近》楠永直枝 1932,カンヴァスに油彩
高知市長浜
長浜川のそばにある雪蹊寺は、川の護岸こそガチガチに固められてしまっているが、
集落の中にたつ境内のありさまなどは当時とほぼ変わらない印象だ。
とはいえ、やはり昔の方が雰囲気がいいが・・・
本展では、この他にも高知市内のなんてことのない風景を画材にした版画作品や、室戸岬近辺の港や山の風景など、たくさんの「佳き風景」が展示されている。
ぜひご覧いただければ。
高知家の風景ーノスタルジー散歩ー
2014年12月18日(木)~2015年2月28日(日)
休館日:12月27日(土)~1月1日(木)
開館時間:午前9時00分~午後5時00分(入場は4時30分まで)
会場:高知県立美術館1階第4展示室
高知県立美術館ウエブサイト
出品作家
片木太郎、河田小龍、楠永直枝、伝・國澤新九郎、下司凍月、坂本義信、島崎呉江、島内松南、田岡秋邨、高橋虎之助、壬生水石、山脇信徳
*追悼展示 大西清澄
学芸員によるギャラリートーク
会期中の毎週土曜日午後1時より
観覧料
一般360円(280円) 大学生250円(200円)、 高校生以下無料