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農業の可能性を示す酪農家 広野 豊さん①

「はたのみち草第6回』
小さな石碑が語る大きな池の話①

2013.6.22 

祖谷の暮らし① ”お茶の大陸” 四国のまんなか、祖谷の人だけが飲む幻の番茶とは?

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じつは “お茶の大陸” だった四国。よくよく眺めてみると、この島はかなりユニークなお茶どころです。なんと言ってもその製法や味が豊富なのです。

一般的な緑茶として飲まれる地域も多いですが(徳島県西端の大歩危周辺など)、ある特定の地域によっては独特の飲まれ方が今に残る地域がいくつかあります。例えば、徳島県上勝町の阿波晩茶高知県大豊町の碁石茶は、茶葉を発酵させてから飲まれる発酵茶で、全国的にもかなり珍しいお茶です。味は甘みが強く、プーアル茶のような口当たり。高知県の四万十地域ではしまんと紅茶、仁淀川流域では香ル茶という紅茶まで作られています。多種多様なお茶が作られているということは、裏を返せば、この四国という島には多種多様な地域特有の歴史や環境があると言えるのかもしれません。

そんな中、四国のほぼまんなか、古くから秘境と呼ばれてきた私の住む祖谷地域。
祖谷では、昔からここでしか飲まれないという、超ローカルで幻とも言える番茶が飲み継がれています。なぜ幻かといえば、祖谷ではお茶は自分たちで飲む分しか作らないため、他の地域にはまったくといっていいほど流通していないからなのです。ただ、祖谷に住んでいると、逆に他の地域のお茶も入って来ないので、祖谷の番茶しか飲めないという微妙な現実もあり。(街に出て買ってくればもちろん飲めます)今回は、そんな祖谷の幻の番茶についてのお話をしたいと思います。

祖谷の崖地に広がる茶畑

祖谷の崖地に広がる茶畑


祖谷は、日本一とも言われる程のとにかく深く急峻な渓谷が、東西に流れる祖谷川に沿って続いています。人の住む集落は、その急傾斜地の上部に点々と形成されていて、茶畑もその集落の周りにあります。こうした祖谷の地理的環境は、昼夜の寒暖差を大きくし、雨の日は1日中深い霧で覆い尽くすことも多く、お茶の栽培にとって最高の要素を生み出しています。

そんな祖谷のなかで、特徴的な急傾斜地に広がる「落合集落」の最上部に住む山西さん夫妻。
5月下旬から6月上旬にかけて、祖谷は茶摘みのピークとなり、6月3日には山西さんの茶畑でも新茶の茶摘みが行われました。祖谷では昔から各家庭の畑仕事などを、近所の人たちで集まって行なうのが習わしとなっていて、この日も10名ほどの近所方が集まって一気に摘み取っていくことになりました。こうしてみんなで集まって各家庭の作業をすることを祖谷では “イイ” と呼び、今でも畑仕事だけではなく、家屋の補修などの仕事も助けあって行われています。

"イイ" で集まった皆さんに休憩を伝えに来た山西さん

“イイ” で集まった皆さんに休憩を伝えに来た山西さん


こうして摘み取られた茶葉は、悪い茶葉を退ける選別作業を経て大釜に入れられ、薪を燃やして炒られます。その後、手作業でじっくり揉んだ後、数日間天日干しをすると完成です。
祖谷の番茶の最大の特徴といえば、その最高の生育環境で育つ上に、こうして今でもお茶の栽培から摘み取り、選別、釜炒り、揉み、乾燥まで、ほぼ全ての行程が手作業であることなのです。つまりは、贅沢かつ手間ひまがかかっているということ。さらに、祖谷では自給用のみ作られるということもあって、基本的に農薬は使用しておらず、摘み取るのは新鮮な一番茶のみです。

摘み取った茶葉の選別をする山西さんとお隣に住む東さん

摘み取った茶葉の選別をする山西さんとお隣に住む東さん


天日干しのためムシロに茶葉を撒く山西さん

天日干しのためムシロに茶葉を撒く山西さん


こうして作られる祖谷の幻の番茶。
最高の環境で、手間隙をかけ、多くの家庭で作っているにもかかわらず、他の地域では飲めない祖谷だけの番茶。摘み取りが終わる梅雨の時期、祖谷のどなたかの家庭にふらっと立ち寄ると、ほぼ自動的に「新茶飲んでみんかえ」と美味しい番茶が出てきます。鉄釜で炒られた茶葉は、煮出すことで茶色が濃く抽出され、味はといえばとにかく深みあがあり、甘みと渋みが絶妙。そして、何より祖谷の番茶は、お茶本来の香ばしい香りがとても深い気がします。

縁側で飲むと最高です

縁側で飲むと最高です


お茶を求めて巡る四国の旅。祖谷に住んでいる私は、そんな”お茶の大陸” 四国ならではの旅があってもいいんじゃないかという気がしてなりません。または「四国お茶サミット」。そんな四国大陸のお茶たちが一同に会す催しが開かれるなら、必ず参加したいと思います。

33.885441, 133.934966

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