高知県と聞くと魚を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は良質なお茶が栽培されており、各所から高い評価を得ているのをご存じでしょうか。
その中でも今、四万十川の上流域にある地区のお茶を知ってもらおうと活動する女性が注目され始めています。
東京生まれ、東京育ち。20代半ばに京都へ移り住み、結婚を機に高知県へ移住をしたという、柿谷奈穂子さん。
日本茶インストラクターの資格を持つ彼女はJA津野山に勤務している傍ら、お茶の淹れ方のワークショップ等の講師をしています。彼女のご家族がお茶に係わる仕事をしていたことや京都でお茶の仕事をしていたこともあり、お茶は切っても切り離せないもの。いわば、彼女のルーツなわけです。
そういったこともあり、お茶に関係する仕事をしたいと考えていたときに偶然いまの仕事に巡り合い、今に至ります。
津野山ビール-予想外の出来事から生まれた、発想の転換の賜物
四国山脈の山間にあり、四万十川の上流域に位置する津野山は標高600mの位置に茶畑があり、美味しいお茶が出来る条件がそろっている良質な土地柄です。
とはいえ、お茶の将来は決して明るいといえる状態とはいえません。お茶の価格は年々下がり続け、一番低い地域で1kg 1000円台にまで落ち込んでいるそうです。生産者の平均年齢は60代後半とされ、後継者不足、放棄茶園の増加…課題が溢れかえる現状なのです。
こんな状況だからこそ、JA津野山に勤務してから茶園の生産者との関係が深まった柿谷さんの思いはひとつ。
「とにかく、今すぐ出来ることをやらなければ。」
彼女の目標は2つ。
ひとつは、お茶の価格を上げる(=お茶の消費を増やす)こと。
もうひとつは、産地を守ること。
まず取りかかったのは、お茶を加工用商品として売り出すことでした。
そもそも津野山のお茶の品質は良い。けれど山の奥手にあることから新茶のシーズンでも遅い時期に流通することから価格が下がってしまう。せっかく上質なお茶なのに適正な価格が付けられない状況に疑問を持ちました。
そこで、お茶のみを売るだけでは消費は増えない、お茶を使った何かを生み出そう、と考えたのです。
選んだのは、「かぶせ茶」。
遮光することで色が美しくなり、甘みが増し、えぐみが少ない「かぶせ茶」の利点を活かし、加工用の材料とすることにしたのです。
そして、次に誕生したのが抹茶風の『かぶせ茶パウダー』。
汎用性が高く、常温保存ができることは加工所がなく限られた人数で事業を進めなければならない環境にも適していました。
このパウダーをどのように使っていくか、と考えていたとき、出店したイベントで思わぬ言葉をもらったことがきっかけになりました。
「イベントのときはビールは飲むけど、お茶は飲まんで。」
ハッとした言葉でした。
「お茶を飲まないんだったら、お茶をビールに混ぜればいいんだ!」
京都に居た頃、抹茶を使ったビアカクテルがあったことを思い出した彼女は早速試作を繰り返し、お茶ビールのレシピを作りました。産地名をきちんと残したい、という彼女はお茶ビールを『津野山ビール』と名付けました。
『津野山ビール』の特徴は色味。パウダーの緑色が映え、見た目でも楽しめます。
お茶の成分を持ち合わせていることから、さっぱりとした飲み口とまろやかな味わいに変わり、なおかつ二日酔いしにくいという嬉しい効果も。
パウダーを使用した梅酒やトニックなどのアルコール飲料を提供するお店もあります。
飲料だけに留まらず、昨年には緑茶とほうじ茶を使用したお菓子も開発。
パッケージにもこだわり、ちょっとした手土産にも使え、普段のおやつとしても味わえるという地元消費も意識した商品が生まれました。
自分のいる環境に併せて、知恵を絞り生み出した商品は確実にお茶の消費を後押ししています。
「お茶は楽しめ」の言葉を胸に
お茶への様々な取り組みを続ける柿谷さん。その根底にあるのは、お茶に係わる仕事をする家族の言葉です。
形式ばったものではなく、自由に楽しむことがお茶の基本。ほんのちょっとしたきっかけさえあれば、お茶を楽しんでくれる人がまだまだ沢山いることを肌で感じています。
お茶の美味しさを伝え、生産者と産地を守りたい、という想いが生み出した商品はお茶の概念の意味合いを広げ、新しい価値を生み出しています。
異動により津野山の特産品を取り扱う立場になった彼女は、これからもますますおもしろいことを仕掛けていこうと、目を輝かせながら思案中のアイデアのことを話してくれました。
津野山ビールを飲めるお店
<高知市>土佐茶カフェ、アンナバー
<須崎市>アットホーム、達魚一筋 り庵、かいじ屋
<津野町>夕晩屋、せいらんの里
津野山ビールの問合せ先
津野山農業協同組合・営農センター輝
TEL:0889-62-3501