空の美しさにかなうアートなんてあるのだろうか。
私はただ私でありたい、と思って暮らしてきただけだ。
旅先でなにもしないという贅沢を知ったのは、はじめて四国の土を踏んだ5年前の夏だ。
当時よく買っていた雑誌でみつけたアートの島、直島の文字。
名だたるアーティストの作品が点在し、それを見に世界中から人が訪れるという。
はじめて赴く四国という土地には、ひとりの知り合いもいなければ情報も少なく、
私はまるで外国へ行くかのような心持ちで、飛行機と船に乗り島へと向かったものだった。
当時のわたしは週末になると足繁く美術館や展示会に通う”アートかぶれ”。
覚えた知識を披露しては悦に浸っていた部分もあっただろう。
だが、この島で数日を過ごしているうちに余計なフィルターが剥がれ落ちた。
「わからない」
わからなかったのだ。
作品を理解しているフリをしていたけれど、それは単に知識や説明の蓄積だった。
わからないことは、わからない。心に感じたことだけを留めよう、そんな気になった。
そうして空をみあげたとき、夕焼けから夜にかけて静かに移り変わる空に出会った。
自然の美しさには敵わないなと思った。
その気持ちはうれしさでもあり、悔しさでもあった。
だから人はなにかを創り出すのかもしれないなと。
*
「なかなか行く場所ではないだろうから」と、贅沢に滞在した場所はいま
「行こうと思えばいつでも行ける」場所になった。
すると不思議なもので、このとき以来直島には足を運んでいない。
アートを見るのも楽しいけれど、うんと”のんびり”しにそろそろまた訪れてみたい。
(写真:香川県香川郡直島町)
内容
私はただ私でありたい、と思って暮らしてきただけ。私のアートは、嵐の中を歩いた足跡みたいなもの、そのときそういう歩きかたをしなくてはならなかったから―。自分自身をこんなに率直に語れるなんて素敵!日本語で書かれた文章を中心にまとめたこの1冊、世界で1番多忙で有名な未亡人オノ・ヨーコの100パーセントをお伝えします。